研究概要 |
本研究は、日本ナショナリズムの問題を、戦後日本の思想史上の問題として、戦後民主主義の質を問うような視座から考察することを目的とする。そのために、三つの柱から本研究を構成する。(1),研究が緒についたばかりの戦後思想史研究という領域の中で、戦後思想の中心的役割を果たしてきた丸山真男をはじめとする代表的思想家の思想的テクストを、平和思想とナショナリズムとの相関関係という視点から分析していく。(2),各地に作られた戦争記念碑や記念館・博物館を調査し、人々に受容される戦争の記憶のされ方を検討していく。平和国家日本をめぐる知識人の発言と、おそらくそれらとは大きな落差をともないながら作られていく戦争記念館の思想を、そのどちらもが戦後日本のナショナリズムの形成に参与してきたとする見通しのもと考察を加えていく。(3),戦争の記憶・表象をめぐる東アジアの比較思想史的視点をできる限り取り入れながら行っていく。ナショナリズムが単に対内的に形成されるものではなく、また対外的な対抗関係から形成されるだけでもなく、同時並行的にまた世界的な冷戦体制の枠組やその崩壊後という状況の中で作られていくことを、戦争の記憶のされ方、戦争博物館の建設を題材に、比較思想史的な考察を加え、日本におけるいわゆる特殊「靖国」問題を、東アジアに共通する問題として、開かれた議論の俎上にのせる可能性を探っていくことを目的とする。
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