本研究「占領期・占領空間における戦争の文化的記憶に関する実証的研究」は、議論が盛んな「戦争の記憶論」の視点に学びながらも、戦争の事後に焦点をあてるものである。特に日本においては占領期の検討が重要であるとともに、広域的な史料収集が近年ようやく可能になってきた。本研究は、米軍占領期の新たな史料をふまえ、これらを思想史手法によって<読む>作業を進め、「戦争の文化的記憶」の構造を明らかにする。本年は、米軍資料(本土占領のSCAP/GHQデータベース及び沖縄占領のUSCARのDB)中のキーワード、War Victim、War Deadに関わる案件の資料について整理・抽出し、外務省外交史料館を含め、日本の府県単位での公文書館の史料調査や自治体刊行資料とつきあわせ、戦争死者をめぐる理解の違い、「事件」の語られ方のズレと異同を検討した。東京空襲死者についてはその成果の一部が新聞記事に掲載された(「東京空襲、日本が遺骨合葬を米に提案」『東京新聞』朝刊、2009.3/8)。また神戸空襲について、兵庫図書館が委託所蔵している神戸空襲についての原史料及び記録の整理及びDB化作業については取材を受け、社会面での記事となった(「神戸大空襲資料をデータベース化」『神戸新聞』、2008.8/6)。沖縄地域については1950年代以降、1970年代に至る「摩文仁丘」形成の経緯と本土からの戦跡巡礼をめぐって、設置経緯に関わる米軍USCAR、日本本土GHQ/SCAP、日本政府関係(外務省管轄CLO史料及び南方連絡事務局関係史料、琉球政府援護課史料)の収集・整理を進め、特に1970年代前後については「復帰前」での本土府県側の動向に着目し、府県行政史料及び都道府県レベルで設置された沖縄戦モニュメント設置と遺族巡礼記録の刊行資料収集を行なった。またこれらをふまえ、戦争認識の大衆化について戦跡観光の持つ役割に注目し、韓国ソウル市漢陽大学校での国際シンポジウム(主催;漢陽大学校比較史比較文化研究所、2008.11/14)で報告した。
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