研究概要 |
本年は、前年度までの米軍資料関係の収集及び整理にめどをつけたため、これらの案件との関わりをふまえながら、時間軸を前後にのばし、戦争の記憶に関わる戦時下戦後にまたがる案件を検討をすすめるとともに、材料としては主に、国内の行政史料を中心とした。特に、戦時下占領期という戦前戦後をまたいだ東京市(都)の忠霊塔の設置及び解体、再生の問題が直接、東京大空襲の死者と関わることを論証したが、その成果については,近刊予定の単著(有志舎より近刊予定)にまとめたほか、その成果の一部については、空襲研究の研究史的整理をふまえた「空襲研究から考える」(『日本思想史研究会会報』27号)ほか、2010年5月に開催された、歴史学研究会大会の現代史部会報告での、空襲研究ほか、戦争の記憶を扱った大会報告に対する記録と批判として論じた(「大会報告批判 山本唯人・ポスト冷戦における東京大空襲と「記憶」の空間をめぐる政治、飯島みどり抵抗の記憶」『歴史学研究』874号)。また占領期の戦争死者についての論考も先の著書におさめたが、その元となった史料群は主に、外務省の近年の公開史料、環境省所蔵の史料群,東京都公文書館の行政文書である。環境省史料は、公開要求によって閲覧、複写を行った。従来は靖国神社との関係で言及されてきたものだが、本研究では新たに、占領下での戦争死者認識をめぐる史料として意味付け、論じている。また、これまでも戦争認識の大衆化について戦跡観光の持つ役割に注目してきたが、外交史料を用いながら改めて、「過去を消費する」と題して、まとめ、発表した(『思想』1042号)。次年度との架橋という点では、空襲に関わる調査や言説、問題群が戦争の記憶と占領期を考えるうえで重要な位置をしめることが明らかになってきたため、改めて占領期の米軍の爆撃調査報告書の原文についても検討および史料収集を}まじめ、最終年度の報告書作成に向けて作業を進めている。
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