本研究は、思想文化論研究の領域で盛んに議論される文化的記憶論を占領期の戦争認識に焦点をあて、実証的に明らかにした。思想文化研究としての戦争の記憶研究は今日では次世代継承が争点となっている。またこれまで戦争の記憶研究は隠された記憶の掘り起こしを人びとへのオーラルヒストリーを通じて先鋭的におこなってきたが、どのような記録が残されてきたのか、この点についての射程が不可欠な段階を迎えている。いずれにせよアジア太平洋戦争の様々な出来事は、戦後多くの証言が積み重ねられ、今日ではグローバルヒストリーとして、移動する人びとや旧植民地の人びとの記憶や記録に踏み込んでの議論がなされている。これに対し、占領期は、時期的には戦時下に近接しながら、記憶があいまいで蓄積されてこなかった時代である。本研究は、記憶不在の占領期を記録の時代として多言語的にとらえ直すとともに、さらなる地域の記録を発掘し、読み解いてきた。最終年度である今年の成果としては、これまで発表してきた論考をふまえ『占領空間と戦争の想起・忘却』(有志舎、2012年10月出版予定、全378頁)を出版予定(再校済)であるほか、一般書の通史として『帝国の時代』(Jr.日本歴史第6巻、小学館)を共同執筆した。口頭では地理学研究および京都府立総合資料館との学際ワークショップとして「占領期京都を考える」に招請、「占領期研究の可能性」として報告した。
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