前年度にはじめたニーチェとダヌンツィオと三島由紀夫の関係について一定の見通しが得られた(平成22年3月20日にベルリン自由大学における三島由紀夫シンポジウムでゲストスピーカーとして講演の予定)。また、韓国におけるニーチェ受容についての資料収集も現地で行い、目下分析中である。 さらに、ハイデガーの見たニーチェ、ローティの見たニーチェ、デリダの見たニーチェというように、思想方向ごとのニーチェの読み方の原因や背景の考察を勧めている。やはり、ナチズムとの近さと遠さがニーチェの読み方に大きな影響を与えていることがわかる。これについては、来年度中に一冊出版予定である。ナチスを直接に経験していないアメリカのローティなどは、ニーチェとナチスの関係には比較的寛容であるのに対して、ハーバーマスなどは、ナチスとの関係を抜きにした読み方は不可能であると考えている。アメリカではイサドラ・ダンカンのように、デモクラシーと芸術の関係を強化するためにニーチェから学んだような例もある。こうしたデモクラシーとニーチェの関係は、ナチズムを経験したドイツの識者には想像を絶するところが重要である。 今年度は特にドイツとフランスの受容を中心にこの問題の深化をはかった。特にフランスのポスト構造主義におけるニーチェ受容は興味深いとともに、いささか自由連想の観がある。 また、交錯する近代の理論をアイゼンシュタットやアーナソンを参考に深め、こうした近代化論とニーチェ受容の関係をどのように組み合わせたら有効であるかについて、さまざまな考察を行った。交錯する近代と複数の近代(multiple modernities)は、現在国際的に最も広く議論されているテーマのひとつであり、この議論とニーチェの受容を関連させることは、生産的であると考えている。
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