本年度は、ヴァチカン教皇庁立アウグスティニアーヌム教父学研究所での在外研究という恵まれた研究環境を活かしながら、研究実施計画において予定していた第1レベルの歴史的検証に取り組むと共に、第2レベルの研究内容を実施するために不可欠な、現地での文献収集作業を行った。 本年度の研究目的である、エヴァグリオス、ルフィーヌス、ペラギウス、さらに大メラーニア、パンマキウス、ヒエロニュムスらの、思想的関連の前提となる歴史的人脈・事実関係の確認、確定作業については、未だ不十分な点はあるものの、ほぼ目的を達成することができたと言える。その成果については、裏面に記載の論文、『アカデミア』人文・社会科学編(87)に発表した。 第2レベルの文献学的依存関係の検証については、在外研究先の教授スタッフとのコンサルティングの中で、きわめて貴重な助言を得ることができた。中でも、ラテン語に翻訳された現存するエヴァグリオス文書が、ルフィーヌスの手になるものであるのか否かについて未だ検証されていないという事実が判明したことは注目に値する。現存するラテン語訳について、語彙表現レベルでルフィーヌスによる翻訳であるのかどうかを検証する必要性も新たに生じてきた。 第2レベルの研究内容を実施するために、本科研費にて購入したデジタルカメラにより、研究所において150点を超える文献を撮影収集し、また、ローマ、アレッツォなどを初めとする古文書館において、研究に関連する貴重な文献資料を撮影、収集することができた。なお、2008年4月に発生したローマでの盗難事件のため、それまで収集していた研究データの多くが失われたことにより、当初の計画遂行が若干遅延せざるを得なくなった。
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