本研究の具体的な課題の一つである近代岩絵具の開発起源と普及過程について、平成21年度までに収集した「商品目録」を活字化し、関連の研究者にも活用でき得る資料とした。(東京芸術大学美術学部紀要に投稿)また、近代の老舗画材店を訪問し、人造岩絵具の製造工程を取材した。また、個人収集家から多量の戦前期日本画顔料の提供を受け、科学調査を含めた基礎調査に着手している。 美術史上の文献調査では、戦後日本画のメチエ形成に影響を与えた戦前の日本画家を絞り込み、資料収集に着手した。近代岩絵具の受容が、洋画への接近を背景にしたのか、古典絵画の復興を背景にしたのか、それぞれを代表する画家の思想や作品から解明に迫ることが次年度の課題となった。 近代日本画材料の中国への伝播と中国岩彩画の現況調査では、上海、杭州、広州への渡航調査を行った。上海では、5年に一度開催される「全国美術展覧会 国画系」を視察し、現代中国画の現況と岩彩画の位置を概観した。また、昨年度に続けて訪問した中国美術学院、広州美術学院では、中国画の教育現場を見学するとともに、教授陣との意見交換を深めることができた。特に広州美術学院では、岩彩画の授業見学をきっかけに、本研究から派生した研究交流の企画が具体化した。帰国後には、中国岩彩画の成立と美術界への波紋に関する雑誌記事等を収集し、翻訳作業を進めている。 中国岩彩画は、1990年代以降の日本留学者によって創設された絵画ジャンルであるため、中国から日本への留学状況と社会背景を踏まえる必要がある。当時の留学生から聞き取り調査を行うとともに、留学生に関する先行研究から必要な情報を洗い出した。
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