本研究課題に関連して、平成22年度には以下のような研究成果・実績をあげた。 (1) 具体的な作例として13世紀半ばにイギリスで制作されたヨハネ黙示録写本『グルベンキアン黙示録』(リスボン、グルベンキアン美術館所蔵MS L.A.139)に含まれる挿絵に見られる印章のモティーフに関する考察を行い、研究論文として刊行した。印章のメタファーとの関連から、三位一体の父と子および神とその僕である信徒の関係、キリストの受肉と受難の証拠、終末における神との「顔と顔とを合わせての」出会いの約束と結びつく要素としての新たな解釈を提示した。 (2) ウェロニカなどの聖顔が媒介物(メディア)として多様な機能を果たしていたことに注目し、そうした機能と西洋中世社会で印章がになっていたメディアとしての機能とを関係づけた考察を行い、印章がロウに残す痕跡と聖顔が信徒の内面に形成するヴィジョンとの関係に言及して西洋中世学会大会で発表を行うとともに、研究論文として刊行した。 (3) 三位一体における父と子の相同性を印章と刻印のメタファーで説明するプレ・スコラ学のテクストに着目し、13世紀イギリス写本に多数見られる詩編109(110)編冒頭のイニシャルDに関して図像学的考察を行い、父なる神の顔が不可視の状態で提示される作例を取り上げ、その成果を新約聖書図像研究会で発表した。 (4) 聖顔と向かい合う信徒が形成する内的認識において神との「顔と顔を合わせて」の出会いがどのような内的ヴィジョンの質と関わるかという問題を、ライヒャースブルクのゲルホーのテクストとの関係で考察し、「イメージとヴィジョン」と題されたシンポジウムのパネラーとして発表した。
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