16世紀をとおしてメキシコにはおよそ300のミッション聖堂が建設された。その全体を総覧する包括的なカタログ研究はいまだなされていないが、おおむね100を上まわる聖堂が現存し、断片的なものも含めれば、その多くに当初の聖堂装飾が残される。今年度は、まず先住民芸術家の関与が最も色濃い壁画装飾に関して、現存作品一覧の作成に着手した。 聖堂壁画は、宣教師や副王領政府の関与のもと、先住民画家が制作した挿絵手稿本と図像上深い関わりがある。今年度は、関連する史資料の収集とその検討に努めた。 なお、本研究の追加採択内定(10月28日)までの期間に、独自に進めていた研究の進捗により、本研究において中心的に取り上げることを計画していたイスミキルパン修道院壁画に関し、1)その図像源泉のひとつとして挿絵手稿本『フィレンツェ絵文書』が想定されること、また、2)この挿絵手稿本を入手したフランチェスコ・デ・メディチがウッフィッツィ宮(フィレンツェ)に描かせた壁画に、メキシコの布教区修道院壁画と並行関係をもつ多くの図像がみられることを明らかにした。この成果をもとに、イタリアに出張し、このウッフィッツィ宮壁画と、やはり数多くの新大陸モチーフを描いたローマ・ヴァティカーノ宮所在のジョヴァンニ・ダ・ウディネのフレスコ壁画を調査する。
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