4月にアメリカ合衆国に出張し、コロンビア大学ヒスパニック・インスティテュート(ニューヨーク)において、メキシコ植民地時代美術の研究者アレサンドラ・ルソ助教授と共同で研究セミナーを開催した。このセミナーにおいて、キリスト教聖堂の美術装飾に深く関与した植民地の先住民エリート層が、ヨーロッパ由来の図像文化を用いて、どのような視覚的メッセージを発していたのかを論じた。この場での議論も踏まえ、研究の最終年度となる本年は、研究成果の最終的な取りまとめを行った。 その主なポイントは、1)イスミキルパン(メキシコ、イダルゴ州)のアウグスティノ会修道院聖堂やマリナルコ(同、モレロス州)の同会修道院回廊の壁画装飾などにみられる、新大陸風物ないし先住民モチーフとグロテスク文様の組み合わせが、いわゆる大航海時代以降、ヨーロッパで形成されつつあったエキゾティックな新大陸表象の図像の類型と深く関わっていること、2)その境界領域的な図像は、植民地化後の先住民エリート層が、みずからの貴族としての地位を確保するため、新たな支配者たるスペイン国王に盛んに請求した、紋章の図案や、宣教師・副王らの先住民文化に対する関心に基づいて盛んに制作された挿絵入り手稿本codiceの図像体系と重なる部分が多い、ということである。これらの点に関する実証的議論を元に、本研究は、宣教師・植民地統治者側の好奇のまなざしと、それを内面化する先住民エリートとの間の屈折した相互作用の中で、植民地美術の核心をなす「間文化的」アイデンティティの美術/図像表象文化が構築されたことを明らかにした。
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