インディジェネス・ビエンナーレの視座を確立するため、第16回シドニー・ビエンナーレを実地調査し、過去15回分については図録・展覧会評を収集して歴史的に検証した。アボリジニ美術の前景化と欧米美術との一体感の創出の2つの方向性を探る様子が見られる。そのほか、光州、上海、シンガポールの国際美術展を調査し、それぞれ開催地域の特色を打ち出すことで、個性化を図る様子を観察した。国内調査では、横浜トリエンナーレが三渓園を会場に組み込んでいた点が特筆される。以上の知見を踏まえて、国際美術展が紹介する「現代美術」を「公定現代美術」と呼び直し、あらゆる同時代の美術を「現代の美術」として論じる視点を、国際コロキウム「プロパガンダと美術/芸術と「参加」」で発表した。また別の機会に国立民族博物館教授吉田憲司氏より研究誌『博物館民族学(Museum Anthropology)』をご教示頂き、ニューヨーク在住キュレーターのM・カーロ氏、アメリカン・インディアン美術研究所キュレーターのJ・サンチェス氏より、それぞれインディジェネス・アートやビエンナーレの研究動向について有益な示唆を受けた。論文「プロパガンダと戦争美術」執筆の準備段階では、ヴェネツィア・ビエンナーレの拡張期であるファシズム時代について関連書籍を通覧し、「ビエンナーレ化現象と国際美術展史料館」では、一般読者向けに研究成果の蓄積の一端を紹介した。artscapeより依頼されたプログへの投稿でも、関心の喚起と啓発に努めた。また、ヴェネツィア市国際美術展第1回展図録(1895年)などの稀覯本を含む全57冊+CD-R3枚(科研購入分25冊)の史料を収集し、研究体制の整備拡充にも努めた。
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