研究概要 |
6月に行ったヴェネツィア調査では、9日間で、主会場内に新設された現代美術史料館図書室、主会場の国際企画展、国別展示、市内各所の併催展を合わせ総数100を超える展覧会を調査した。8月には、その報告会をNPO法人・山口現代藝術研究所主催で行った。国別部門と異なる枠組みで、パレスチナ人やクルド人の団体が発表の機会を得ている事例に着目した。またヴェネツィア史を再検討する中で、同展の国別展示館建設の雛形を、トルコ人、ドイツ人などの商館建築の歴史にもとめる視点を得た。さらに8月の1ヶ月間は、UBEビエンナーレの設置監督を依頼され、実践を通して国際美術展の現状について考察する機会も得た。 本年度は、初の試みとして、各調査先から日々の調査内容をプログ上で報告することも行った。9月の福岡、10月のイスタンブール、11月の神戸とサンティアゴ(チリ)、12月のブリスベンでのそれぞれの国際展について報告している。 9月にベルゲン(ノルウェー)で4日間開催されたビエンナーレに関する国際シンポジウムについては、内容がインターネット上で同時公開されていたので、全日聴取した。初日の開幕式に続く3日間で、それぞれ「歴史」「実践」「未来」とテーマを立てて、講演と討論が行われた。シェイクスピアの「生きるべきか死ぬべきか」をもじった「To Biennial or Not To Biennial」を表題に掲げ、世界各所でビエンナーレの新設が続く中、新たにベルゲンでもビエンナーレを開始するべきかどうかが争点となっていた。欧州の「辺境」を自認する主催者が、サイゴン(アジア)、ダカール(アフリカ)、シャルジャ(中東)、ハバナ(中米)などの実践を紹介することで、共通する課題を探ろうとしていた点が注目された。 これらの研究調査を踏まえた成果報告を10月に福岡で行われた公開コロキウムで発表し、同発表原稿を大学紀要に投稿した。本稿では、国際美術展の新設が世界中で相次ぐ現象は、世界美術史に対して発言する権利を獲得する運動と見なし、普通参政権の獲得の歴史と同様、美術史記述における不平等が是正されるまで、ビエンナーレ化現象は続くであろう、と結論づけた。 各展覧会の調査にあたっては、1,000枚から4,000枚に及ぶ詳細な写真記録を行ったほか、図録・関連資料についていも約140点(うち科研費による購入図書23冊)を新たに収集した。
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