研究課題/領域番号 |
20520087
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研究機関 | 金沢美術工芸大学 |
研究代表者 |
保井 亜弓 金沢美術工芸大学, 金沢美術工芸大学, 教授 (30275086)
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研究分担者 |
神谷 佳男 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 教授 (10264681)
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キーワード | Abraham Bosse / Jacques Callot / エッチング / 版画 / 技法 / 17世紀 |
研究概要 |
最終年度にあたる本年度は、補足的な海外調査をブリュッセルのカルコグラフィーを中心に行うとともに、これまで3年間の調査で収集したデータを検証し、防蝕被膜(グランド)の再現実験を行い、それらの成果をまとめた。3年間で国内外の7機関においてデジタル・マイクロスコープによる原版調査を行った。中心をなすのは、初めての本格的な凹版画技法書である『腐蝕銅版画技法』(1645)を著したアブラアム・ボス、そしてボスがその画期的なエッチング技法を学んだというジャック・カロである。調査の結果から、ボスやカロは、エッチングを主としながらもエングレーヴィングを多用していることが判明した。ボスの『腐蝕銅版画技法』では、エングレーヴィングの用具であるビュランの扱い方にもわずかながら触れられており、ビュランを使うことができる人はエショップの線をそれでなぞる方がよい、という記述も見られる。実際、ビュランが線の肥痩を滑らかにつけるために使われている他、表現そのものになっている場合もある。マイクロスコープによる観察によってボスやカロの制作の工程をより明らかになったといえる。グランドの再現実験については、ボスの『腐蝕銅版画技法』の第3版にあたる、シャルル・ニコラ・コシャンによる改訂新版(1745)に新たに記されたカロやレンブラント等のグランドを、処方に従い再現した。ボス自身はカロのグランドについて詳しく述べていない。再現実験の結果、材料に琥珀と書かれているものの、実際は溶けずに粒子が残ってしまい、グランドには適さないことが判明した。つまり、コシャンは実際には100年前の17世紀の処方を十分に理解してはいなかったのではないかと考えられる。版画技法は、刷った作品から考察されるのが常であるが、本研究ではできるだけものに即した観点からアプローチすることで、版画技法の新たな側面に光をあてることができたと考える。
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