研究の初年次にあたる平成20(2008)年度は、大西克禮の美学研究において「受容期(西洋美学の批判的検討に努めた時期)」に分類される諸著作・翻訳のうち、『美學原論』(不老閣書房、大正6(1917)年)、『現代美學の問題』(岩波書店、昭和2(1927)年)、『カント〈判断力批判〉の研究』(岩波書店、昭和6(1931)年)、『美意識論史』(岩波書店、昭和8(1933)年/角川書店、昭和24(1949)年)、『現象學派の美學』(岩波書店、昭和12(1937)年)、翻訳:カント『判断力批判』(岩波書店、昭和7(1932)年/岩波文庫(上・下)、昭和15(1940)年)について、それぞれの研究対象であるカント(lmmanuel Kant)の超越論的美学、コーヘン(Hermann Cohen)の純粋感情論、Th・リップス(Theodor Lipps)、フォルケルト(Johannes Volkelt)の感情移入美学、ガイガー(Moritz Geiger)、オーデブレヒト(Rudolf Odebrecht)の現象学的美学に関する主著ならびにそれらに対する研究書・研究論文と対照し、大西の理解あるいは批判が、テクストに即して正当なものと言えるのか、詳細に検討した。 このようなテクスト読解と合わせて、国内にある西洋美学関係の文献、ならびに、大西の先輩にあたる阿部次郎の美学研究について、東北大学附属図書館、阿部次郎記念館、仙台文学館(宮城県仙台市)にて、また、大西が1927年から28年にかけて留学した当時のベルリン大学の教育・研究状況について、ベルリン国立図書館、フンボルト大学哲学科(ドイツ連邦共相国ベルリン市)にて資料調査した。本研究のうち、美意識の構造に関する研究成果の一部は、平成20年10月、第59回美学会全国大会における口頭発表(「場所的想像力--形象性を包越した関係性の表象」)のなかで公表した。
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