研究概要 |
昨年(平成20年)6月に,観光美学の基本方針を示す論文「感性的営為としての旅:観光美学の構築に向けて」が美学会の機関誌『美学』に掲載された.ここでは,観光が感性の営みとして美に向かうものであること,また観光は消費とは言えないこと,これらのことを明らかにすることで,観光者のよりよい自己認識に貢献するだけでなく,観光行為の社会的位置づけについても,観光美学として貢献するところが大きいことを論じた. 同年7,8月にはスウェーデン,ストックホルムのドロットニングホルム劇場についての論文集(Willmar Sauter編,アイオワ州立大学から出版予定)に関する打ち合わせ会議に出席し,論文集全体の基本方針とその中での私の論文のテーマを定めた,それに従って執筆したのがCatalyzing a Fusion of Horizons: The Drottningholm Court Theatre as a Tourist Objectである.この中で私は,歴史的に保存された当劇場がガダマーの言う「地平融合」を引き起こす理想的な場であることを明らかにし,当劇場を観光対象と見てこそ,劇場の存在価値も聴衆の体験も一層明確なものになることを論じた.平成21年3月の二度目の打ち合わせ会議において大筋の了解が得られたので,平成21年6月末の最終稿締め切りに向けて,現在鋭意改稿中である. これら個別の論文と並行して,観光美学を1冊の著書にまとめるべく,春秋社との打ち合わせも行っている.この本では,上の論文で示した基本線に則って,ドロットニングホルムのような事例をいくつか挙げて,観光美学という研究分野の学問的,社会的重要性を明らかにするはずである.
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