研究概要 |
交付申請書に記載された本研究の目的は次の通りであった.「観光とは快のための旅である。その快を美的=感性的なものととらえ、美の快について美学の中で積み重ねられてきた知見を観光に応用するとともに、観光研究の成果を美学に適用し、以って両分野に跨る新たな研究領域を確立することが、本研究の具体的目的である。これは人々の観光観の変革という最終目的を実現するための理論的前提をなす。」 本年度の研究では,この目的を達成すべく,写真及び美食という,観光と関わりの深い感性的行為を分析するという計画に沿って,まず作業を進めた.その結果,写真については,Crawshaw, Urryらの観察を踏まえつつ,フレームを定める行為自体が感性的であることを指摘し,美食についても,Annals of Tourism Research掲載論文を中心とする諸先行研究による事例報告の分析から,観光者による土地のあじわいの最たる方法であることを確かめることができた. 実際の研究ではこれらに加え,「ショッピング」も写真や美食と同様に,観光者が観光先をあじわう有力な方法であることを明らかにし,また,劇場が観光対象と見られることで,より多くのものを来場者に提供しうることを,スウェーデン,ストックホルム近郊のドロットニングホルム劇場の調査を通じて実証することができた.さらに,観光者による土地のあじわいが,その土地の地形,経済,政治,文化についての理解を深めることによって一層深まることを,調査から実践的に明らかにし,Carlsonが自然の感性的鑑賞について言うscientific cognitivismに倣って,cultural cognitivismと命名される可能性があるという見通しを得た.
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