平成20~22年度の三カ年で中国と中央アジア(新疆)の現地調査を実施し、俗形仏教供養者像の基礎データを収集した。主な訪問地は以下のとおり。 平成20年度:新疆ウイグル自治区博物館、新疆文物考古研究所、キジル石窟、キジルガハ石窟、クムトラ石窟、西安博物院ほか。 平成21年度:敦煌莫高窟、同西千仏洞、雲岡石窟、大同市博物館、河南博物院、焦作市博物館、麦積山石窟、陝西省考古研究院ほか。 平成22年度:西安碑林博物館、正定文物保管所、北京首都博物館、甘粛省博物館ほか。 調査データを整理・分析した結果、供養者像の表現とその意味や機能について、以下のような知見を得た。 (1)中国の供養者像は"肖像"というより一種の"理想像"である。 (2)供養者像は男女、老若、貴賎、僧俗などの要素で類型化された図像である。 (3)供養者像の人数や題名は、基本的には実在の供養者集団の状況を表していると思われる。ただし皇帝皇后供養者像の場合は、おそらく実在の皇帝皇后ではないと思われる。 (4)供養者像の服装は基本的には供養者自身の民族服であるが、支配体制や社会制度との関係で服装が利用される場合、必ずしも服装イコール供養者の民族とはならない。 (5)中国では供養者像を男女別に左右に分けて配置するが、新疆の石窟では男女混成である。 (6)中国初期の供養者像は同形同大の像を一列に並べる配置であったが、5世紀末の洛陽では主従形式の供養者群像を前後に重ねる複雑な構図が出現した。 (7)民間の邑義や家族集団による仏教造像は、仏教信仰に加えて、現実的で社会的な目的を持っており、供養者像の表現はより重要であった。 (8)家族集団の供養者像では、故人となった家族が含まれることもある。 (9)6世紀以降、墓葬美術のスタイルで表現された供養者像が出現し、仏教が葬送や祖霊崇拝の機能を兼ねていたと思われる。
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