本年度は、ルアール家に所蔵される江戸期の冊子とモリゾの作品とを比較検討し、作品への具体的な影響を調査した。その結果、広重の作品との関係については、モリゾの風景画における独特の構図にその相似点を多く指摘できることがわかった。だが、直接的な影響を示す具体例を見出すには及ばず、これらの冊子の来歴や所蔵に至る経緯、および、別のイメージ・ソースからの影響などを含め、今後別のアプローチからさらなる検討を進める必要性が生じた。 同じくルアール家所蔵の中国の冊子の図像についても検討を試みたが、こちらも具体例として直接的な影響関係を見出すことはできなかった。また当初期待されたルアール家には、モリゾに関連する資料は、上記以外のものは残されていないことが判明した。 以上の結果を得て、モリゾと親交のあった周辺の画家との関係からモリゾのジャポニスムに迫るべく、とりわけジャポニスムの視点を共有していた画家であるマネ、ドガ、モリゾ、ステヴァンス、ファンタン=ラトゥール、カサットらにも研究対象の範囲を広げ、調査を開始したところである。 その他、フランスにおける現地調査では、フランス国立図書館、およびオルセー美術館資料室において関連の資料を収集した。同時代のファッション誌などをはじめとするイメージ資料を入手することができたが、詳しい考察については今後の課題として残されている。フランスでは同時に、モリゾ独自の風景画の構図を検討するため、主題の対象となったノルマンディー地域を訪れ、その視点を考察する試みも行った。これらの資料をもとにした作品との比較による検討は今後の課題となる。
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