本年度は、具体的にモリゾの作品のなかにジャポニスムを見出す試みとして、主題からのアプローチを試みた。 ベルト・モリゾの作品には、日本の版画を背景に描きこんだ作品が数点ありこれらについては従来の研究において言及されている。しかしながら、別のレベルにおいても日本美術をうまく吸収したと思われ、その一つとして「化粧」の主題があげられる。そこで同主題について以下の手順で考察をした。 1、モリゾの「化粧」の図像の特徴の検討:モリゾは1870年代半ばから晩年にかけてしばしば「化粧」を主題に一連の作品を制作している。これらが具体的にどのようなものなのか、年代と図像のヴァリエーションを追いつつ考察を進めその特徴を明らかにした。 2、マネとの比較検討:同主題の着想は、はじめマネから得たものと思われる。とはいえ同じ主題を扱いながらもモリゾの視点はすでに最初の作品から女性の私的生活としての要素が強く、男性画家の図像とは趣きを異にした独自性をもっていることが明らかになった。 3、カサットとの比較検討:カサットとは、ともに日本の浮世絵展を訪れたことが知られているが、具体的にどの作品にどの程度これらが反映されているかは知られていない。ここでは「化粧」の図像のなかに、とりわけ二人でほぼ同じ構図を扱う試みの中に日本美術の強い影響を見出すことができることがわかった。 4、その他同時代の「化粧」の図像との比較検討:スーラ、シニャック、その他大衆的イメージとの比較もまたモリゾの「化粧」の主題の特異性を一層明確にするものとなった。 以上のような考察の結果、モリゾの「化粧」の図像には、古代からの伝統的図像、同時代の広告などを含むさまざまな化粧の図像、自分自身の私的体験に加え、日本の浮世絵から学んだ構図や視点が巧みに融合されていることが明らかとなった。
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