本年度は、ノルマンディーの各美術館において、印象派フェスティヴァルのもとに多くの展覧会が開催された。そのため夏季には、パリのオルセー美術館、マルモッタン美術館における調査だけではなく、ジヴェルニー、ルーアン、ル・アーヴルの各美術館において、多くの関連作品、ならびに資料について有効な調査をすることができた。 また後半は本研究をまとめるべく、これまでの調査を踏まえモリゾのジャポニスムを具体的作品のなかに再検討した。 その結果、モリゾにおけるジャポニスムの研究はこれまで断片的な問題しか扱われてこなかったが、今まで考えられていた以上に全般にわたって日本美術に多くを負っており、総合的な視野のなかでまとめることの必要性が導き出された。 具体的には、(1)画中における陶磁器や装飾品など日本のモティーフの導入、(2)扇面など日本美術を思われる支持体および水彩の採用、ならびに版画制作の試み、(3)「化粧」をはじめとする人物画における主題の形成、(4)風景画における独自の構図の形成、(5)装飾パネル画の構想などが、論点としてあげられる。重要なことは同時代のほかの多くの画家たちとは異なり、モリゾにおいては以上にまとめた種々の試みが、一時期な思いつきによるものではなく、各時代を通して継続的に試みられていることが指摘される点である。本研究においては、モリゾ固有の問題にとどまらず、同時代の周辺の画家をも含めたジャポニスムの問題にも広がる新たな視点が見出せたと考えられる。また本研究と関連して、日本における近年のモリゾ受容の問題も展開した。詳しくは今後、文章において随時まとめていく予定である。
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