本課題では江戸の写生画と明治近代日本画との関係について、秋田蘭画派および円山四条派、さらに明治における京都画壇をケーススタディとして検証した。一次資料についての検証作業は、実作品の調査と周辺的文書資料の分析の二つから成るが、研究最終年度となった平成23年度では、最終的な一次資料の調査・分析に加え、できるだけ多くの研究成果を公表すべく論文等の執筆に時間を割いた。総括としては、全研究期間を通じて著書2点、論文4本のほか、関連実績としては招待講演3回、コラム執筆2本のほか、第22回和辻哲郎文化賞(一般部門)の受賞など、外部からも高い評価を受けることができた。2011年度については当初より、伊藤若沖および円山四条派における「白鸚鵡図」の問題を明治近代花鳥画との関係において考察を深めることを目標とし、さらに追加的な論文をまとめることができた(拙論「鸚鵡と美女-伊藤若沖・花鳥画と美人画の境界」、小林忠先生古希記念会編『豊饒の日本美術』所収、藝華書院、2012年、146-152頁)。明治以後の京派における鸚鵡図の展開、またその後の近代日本美術全体におよぶ同図像の意味合いに関する考察部分を新たに論じた。ただし同論文は、編集の都合上により、当初予定されていた発表分量を大幅に削らざるを得ない状況であったため、今後別な形で論全体を2012年度内に公表する予定である。また明治以降の美人画および工芸意匠(デザイン)に、江戸期の写生的花鳥画が転用されている作例が見いだされる問題については、現在著作を執筆中のためそれに所収の予定である。
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