私はこれまで、江戸時代花鳥画に対する従来認識の再考を目的とする研究を行ってきた。その研究途上で、以下のような点を気づいた。すなわち今日、江戸時代美術史上において<写生画派>のカテゴリーに括られる円山四条派や秋田蘭画派などは、いずれも「近代日本画」という美術ジャンル創成期の明治時代において、画家や美術批評家たちによって意識的に見出されてきたのである。本研究ではこのような点を重視し、江戸時代以来の写生的な花鳥画の題材(motif)や画題(subject)が、従来では関連性は無いものと考えられてきた「美人画」というジャンルや、あるいは工芸意匠(デザイン)など絵画以外の美術ジャンルとも、きわめて近しい関係にあることを新たに明らかにした。このような事実は、現在の日本美術史研究ではいまだ理解されていない。そこで本研究では、具体的作品に基づく図像検証を重ねるとともに、新聞・雑誌記事の分析により明治~昭和初期における花鳥画についての「言説」についても検証を進めた。以上のような分析作業を経て、私は2008~2011年度までに、2冊の単行本と4本の研究論文を成果として発表した。また2012年度中にも新しい単行本を発表予定である。
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