藤田が1920年代初頭に考案した絵画技法「乳白色の下地」については、保存修復や美術史研究者に限らない幅広い関心を長らく集めてきたものである。平成22年度は三か年にわたる本研究の最終年にあたる。初年度に藤田の絵画技法に関する国際シンポジウムを開催し、二年目の年度末には報告書を刊行した(木島隆康・林洋子編『藤田嗣治の絵画技法に迫る:修復現場からの報告』東京藝術大学出版会)。今年度は、年度初めにその報告書を国内外の関係機関や個人へ送付した。 その結果、本報告書は研究者に限らない反応をいただき、日本経済新聞や京都新聞、雑誌『美術手帖』などの媒体でも紹介された。また、シンポジウムを聴講したポーラ美術館の内呂博之学芸員がその後、自館の所蔵作品について化学的な調査を行い、その結果を同館での展覧会「レオナール・フジタ私のパリ、私のアトリエ」(2011年3月19日-9月4日)で発表した。同展カタログは書籍として刊行され(『レオナール・フジタ私のパリ、私のアトリエ』東京美術)、内呂氏の論文「技法の謎を解く鍵-フジタの「乳白色」をめぐって」は報告書段階での判明点(「タルク」の利用の重要性)をより具体的に実証するものとなった。こうした研究の深化は読売新聞文化面(2011年2月24日)でも紹介され、平成23年度以降、1920年代に限定しないこの画家の絵画技法をめぐるシンポジウム開催や公的研究費申請、関連出版へと展開する見込みである。
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