円形式と方形式の2形式に分類される星曼茶羅(北斗曼茶羅)の方形式の構図に関わる課題については、平成17~19年度の科研における研究成果を公開した(松浦清「北斗曼茶羅の構成原理と中尊の性格について-大阪・久米田寺本を中心に-」『軍記物語の窓第三集』和泉書院、平成19年12月)。その際に十分言及できなかった円形式の構図に関わる課題の考察を、本年度の研究の中心に据えた。考察の結果、星曼茶羅の構成要素である黄道十二宮と二十八宿の位置関係を座標として考えた場合、惑星の相互の位置関係にどのような意味があるのか捉えなおすことが、課題解明のためのアプローチとして重要であると考えるようになった。それは、円形式の構図の画面中心付近に水平線が描かれており、水平線の線分の両側に当時は惑星とみなされていた太陽と月を配することの重要性が、従来全く見過ごされていたことに気づいたからである。黄道十二宮と二十八宿の位置関係から決定される方位をもとに、太陽と月の位置を捉えなおすと、それらは西と東に180度離れて位置しており、しかも月は満月として描かれていることに気づく。このことは、奈良・法隆寺本(甲本)を例にすれば、太陽が牛密宮に位置し、満月が心宿に位置する構図であり、歳差運動を考慮して古天文学的な観点から捉えると、円形式の星曼茶羅は春の季節の旧暦15日前後の月の出の時刻を表現していると解釈できることになる。このようなホロスコープ的な配置の意味は新知見であり、占星術的な背景を前提としていることが予想される。星曼茶羅を考える場合、従来の仏教美術(密教絵画)の枠を超えて、精密科学としての古天文学の発展を視野に入れる必要がある。このような考察について執筆した論文は既に脱稿しており、平成23年5月の刊行予定である。
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