環北太平洋北方圏に継承されてきた狩猟採集を中心とした伝統文化である生業や儀礼の現場に見る思考と感性について実地調査と研究発表を継続し、そこから得た資料や成果を基に作品を構想してきた。当該研究最終年度の研究成果として下記①~③のとおり空間造形作品の発表及び作品集としてのウェブサイトを公開した。 ①開港都市にいがた 水と土の芸術祭 2012(国際芸術展)にて作品「けはいをきくこと・・・北方圏における森の思想(南限のチャシ1~4)」の発表及びシンポジウムを開催した。 ②本研究成果をまとめる発表として作品「けはいをきくこと・・・北方圏における森の思想cipasir」(坂巻正美展/網走市立美術館)の個展及びシンポジウムを開催した。 ③研究成果をウェブ版作品集(http://www.kuma-s.org/)として作成し、公開した。 本研究成果は、生態系の均衡を保つ思考と感覚を持って継承されてきた北方狩猟民の伝統文化が、現代社会における物質中心主義に対抗する方法を示すことに着目し、そのイメージを現代の美術表現として造形したことにある。自然環境に負荷をかけ過ぎない狩猟民の伝統的生活は、人の存在が自然の仕組みの一部として均衡を保ちながら機能し、大地と共に生きる道を現代に伝える。伝統的狩猟文化において動物を介して行われる精神的糧と物質的糧の均衡を保つ贈与と返礼の供儀に見る思考や感性をモチーフとした作品「けはいをきくこと・・・北方圏における森の思想」の連作は、場所の歴史性をも造形表現の素材とする。アムール川流域を出自とする古の民・オホーツク人の痕跡を残す日本の北方文化の南限・新潟での作品発表と対応する網走での発表は、オホーツク人の拠点である古のクマ儀礼を標す地であり、環北太平洋北方圏における先住民文化の玄関口であった。現代の芸術表現の要素として重要性を増す場所の歴史性においても意義ある研究成果となった。
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