これまでの平成20~24年度までに蓄積・検討を加えた資料について、総合的に考察を行った。 平成20年度より平成23年まで、計4回行ってきた欧州9カ国(ドイツ連邦共和国、英国、ベルギー王国、フランス共和国、フィンランド共和国、スペイン王国、イタリア共和国、ポーランド共和国、スイス連邦)29都市及び地域において55以上の美術館・博物館、大学、財団、教会等での木彫に関する調査・研究資料収集を基に、欧州における木彫と日本における木彫との比較検討を行った。石の文化の中で育まれた欧州の造形観が木彫表現の中にどのように反映されているのか、そして木の文化から生まれた日本の木彫表現との差異や共通点などを探り、それぞれの特徴的造形に至る要因を探った。 日本と欧州の木彫表現における特徴の比較について、欧州では概して「求心的な形態の捉え」をしているのに対して、日本では「面で囲む形態の捉え」をしていることを確認した。使用材の硬軟が形態を導き出していく手法に影響を与えていることが要因といえる。国の風土により違う、植生から良材としての樹種、素材の硬さ、粘り、道具、形態を導き出していく手法、これらの要素が複合的に作用して、日本、欧州それぞれの独自の木彫文化が生まれたといえる。また、樹種や樹種による素材の硬さだけでなく、粘り、扱う道具、彩色などさまざま要因の関係性を今後明らかにしていく必要がある。これらを踏まえ、自身および研究分担者それぞれが行っている実際の木彫制作において、どのようなことが造形的試みとして可能か検討を行った。
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