1 19世紀ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーを研究するための基本的な資料である Cosima Tagebuecher を読み解き、時代背景から作品の成立史にわたる詳細な注解を付して『コジマの日記』(東海大学出版会、全10巻)として刊行すべく、平成24年度には日記の1871年11月~73年4月部分の注解作業を進めた。平成26年度の刊行を予定している。 2 ワーグナー中期の音楽哲学論文である『ベートーヴェン』、『俳優と歌手』の翻訳を進めた。この2論文を含む論集『ワーグナー著作集 ベートーヴェン』(仮称、法政大学出版局)は平成26年に刊行予定である。 3 ワーグナーの音楽劇 Musikdrama への橋渡しをなす初期のロマン的オペラ『タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦』(1845)についてテクストとスコア(総譜)の両面に渡って各種の遺稿を収集し、徹底的な批判的校訂を加えることにより、従来「ドレスデン版」(1845)、「パリ版」(1861)、「ドレスデン版」(1875)などと呼ばれながら、必ずしもその実態が明瞭ではなく錯綜していた刊行「版」と手書き「稿」の関係を整理し、『タンホイザー』をめぐる「版」の問題に一定の決着をつけた。そのうえで音楽学者三宅幸夫氏との共同作業により、2012年5月、日本ワーグナー協会監修『対訳 タンホイザー』を五柳書院より刊行した。 4 ワーグナーの最初のロマン的オペラ『さまよえるオランダ人』について、文献批判的手法によりスコアと台本テクストの確定を行ない、翻訳と注解を進めた。その成果は2013年5月22日、五柳書院より刊行される予定であり、3と合わせてワーグナー研究はもとより、日本における音楽文化研究に大いに資するものと期待される。
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