研究概要 |
本研究は,土地に関わる記憶が人々のうちに形作られ,また変容してゆく過程で芸術がどのように関与し,その際にいかなるメカこズムが作動しているかを解明し,それが人々の共同体意識やアイデンティティ意識の形成へと結びついてゆくあり方を明らかにすることを目指すものである。 初年度である本年度は、このような問題意識の上にたった考察の手がかりとして、芸術作品内での表現が土地に関する具体的な表象に直接的な形で結びつけられてゆく「装置」の典型例として、映画のロケ地巡りという題材を選び、そこで地域イメージが生成変容する過程について、当初の計画通り、北海道小樽市を事例として考察をすすめた。小樽を舞台やロケ地にした映画を数多く集めて検討した結果、ロケ地は単に現実の風景を映画の中に持ち込むことでイメージ的な奥行きを与えることをこえて、映画自体が現実の地域イメージを新たに形作ったり変容させたりする力をもっていること、とりわけ最近ではフィルムコミッションによるロケ誘致活動が盛んになる中、そのことが逆に地域イメージを混乱させる結果をも生み出していることなどが明らかになった。この成果は著書『音楽とメディアの文化資源学』の一部として、2009年中に公表される予定である。 本年度はその他、次なる考察事例であるベルリンに関して資料調査をすすめたほか、今後さらに視野を広げ、映像だけでなく諸メディアが絡み合いながら地域イメージを形作ってゆく現場をとらえてゆくための事例として、司馬遼太郎の『街道をゆく』の映像化の問題など、いくつかのテーマを選び出し、その予備調査を行った。 また、この研究の方法的基礎としている「文化資源学」のあり方に関わるいくつかの間題を検証した。本年公表した論文は主としてこの部分に関わるものである。実りある一年であったという感触をもっている。
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