平成20年度は、(1)宮内省楽部関係資料の追加調査、(2)近世の宮廷儀礼・幕府儀礼に用いられた雅楽と近代の雅楽との連続・非連続についての調査・考察、(3)近代日本において雅楽が果たした役割の分析・考察、の三つを柱に、平成21年度刊行予定の近代雅楽に関する研究書の執筆とそれに伴う準備をすすめた。 (1)では、元楽師への聞き取り調査は日程が折り合わず延引中だが、重要なトピックスに即して芝葛鎮・豊喜秋らの楽師の日記や新聞記事・公文書の追加調査を行った。(2)では、楽人の日記(国立国会図書館蔵『楽所日記』『楽所録』、天理図書館蔵『芝家日記集』)と『後桃園天皇実録』『光格天皇実録』『仁孝天皇実録』から江戸後期の雅楽復興関連記事を調査するとともに、江戸・日光における将軍家祭祀での雅楽奏演状況に関する調査を行った。近世には宮廷・幕府のいずれも仏教儀礼に雅楽を多用しており、近代以降の雅楽の奏演状況とはかけ離れていることがわかった。(3)では、楽師作曲の唱歌・儀式唱歌とその拠り所となった雅楽音階(律旋・呂旋)の呼称と説明の出現・定着の過程を調査し、その役割を分析・考察した。 これらの調査から得られた知見は、平成20年度中に学会発表や論文発表するには至らなかったが、現在準備中の研究書の原稿にはすでに盛り込んであり、平成21年度中には全体をとりまとめ、刊行する予定である。
|