平成21年度は、明治期を中心に、近代における雅楽の変化を逐った研究書『明治国家と雅楽-伝統の近代化/国楽の創成』のとりまとめに全力を注ぎ、無事刊行を果たした。本書は、先行研究の少ない近代の雅楽に関するまとまった研究書として意義あるものと考える。また、中国で行われた二つの国際研究集会(南京市・南京師範大学、西安市・西安音楽学院)において、20世紀前半の日本の音楽資料展覧会(雅楽に関する資料を含む)に関する論文発表と、江戸時代の日本雅楽に関する招待講演を行い、日本の雅楽に関する中国人研究者の関心を喚起することに努めた。 資料の調査と公開に関連したものとしては、芝葛鎮の記した日記の中で、天理大学附属天理図書館所蔵『芝家日記集』に含まれていない明治4年分の精読と翻刻作業を進めた。年度内に基礎的な作業はほぼ終え、本科研の最終年度である平成22年度中に印刷刊行できるよう原稿整理を進めている。近代の雅楽家の日記はこれまで活字化されておらず、1年分とはいえ、雅楽局の設置直後の状況や明治4年の大嘗祭に向けた動きを記した明治4年の日記の史料的価値は高く、印刷刊行する意味も大きい。さらに、戦前期に満州国祭祀府に赴任した経歴をもつ島村政章氏(大阪高槻市在住)を訪ねて聞き取り調査を行い、当時の状況について貴重な証言を得た。
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