平成22年8月末~9月初旬にバーゼルのパウル・ザッハー財団資料室にて、S.ヴォルペの《Battle Piece》(1943-47)の数種の手稿譜等を閲覧した。これは、ヴォルペがチューダーにスケッチを見せながら作曲を進めたとされる作品であり、1995年にチューダーが校訂および校訂報告を行っている。ヴォルペの作曲のプロセスを示す複数の異稿および校訂譜の比較検討を通して、チューダーのピアニズムの一端を把握することをねらいとした。結果として、校訂報告で指摘されている事項も含めて、複数の稿の間にデュナーミク、フレージング、運指などの細かい差異を認めることはできたが、それらの情報から何らかの一貫した方向性や傾向を見いだすまでには至っていない。しかし、ピアニスト、チューダーにとって最初期の重要曲であるので、分析の視点を変えて再度検討したい。 平成23年3月には、シカゴ、ノースウェスタン大学図書館所蔵の「John Cage Collection」の調査と、ロサンゼルスのゲッティ研究所図書館所蔵の「David Tudor Papers」の調査をおこなった。前者については、チューダーからケージに宛てた書簡を含む、チューダー関連の書簡数十点を閲覧した。後者については、音楽以外の分野に関するチューダーの関心を示すメモ類、パートナーであったM.C.リチャーズからの書簡等を閲覧した。これらの資料については現在整理中であるが、ここから読み取れるチューダーの世界観や志向には、彼の音楽構成の志向と共通する側面を伺うことができ、これまでに収集しデータベース化してきた多様な情報を読み解く軸の一つとなりうると予想される。
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