本研究課題は、20世紀後半を代表する作曲家の一人、ジェルジ・リゲティ(1923-2006年)について、その創作を彼の文化的背景である中東欧音楽の文脈のなかで明らかにしようとするものである。具体的には、1.リゲティの少年時代の音楽的環境を明らかにし、そこでの民俗音楽の役割などを検討すること、2.第二次大戦後、1956年のハンガリー動乱までのハンガリーにおけるリゲティの活動を当時の社会状況との関連の中で読み解くこと、3.西欧亡命後、パリ、ケルンなどの「前衛音楽」のサークルにおけるリゲティの位置を明確にすること、4.リゲティ自身の「ヨーロッパ音楽」理解を彼の著作や音楽作品の分析によって明らかにすること、を目指す。 本年度は、これらの論点のうち、1.について8月にリゲティの生地において調査を行い、これまで知られていなかった彼のユダヤ的環境を明確にすることができた。この点については、「トゥルナヴェニ:リゲティの生家」と題する小文も発表した。2.については、特にハンガリーの指導的作曲家であったバルトークと、同僚であったクルターグとの関係について研究を進め、京都市立芸大において講演を行ったほか、クルターグのインタビュー集『クルターグの肖像-インタビューとリゲティへのオマージュ-』(構成・編著ヴァルガ・バーリント・アンドラーシュ)の翻訳を行い、詳細に検討した。また、3.については、リゲティ自身の論文「慣習と逸脱:モーツァルトの弦楽四重奏曲『不協和音』」"Konvention und Abweichung. Die 》Dissonanz《 in Mozarts Streichquartett C-Dur KV 465"の訳文を作成して、詳細に検討した。
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