本年度は、初年度に作成した代表的な謡曲の作品約50曲の文字テキストファイル(いわゆるフシがついている部分についての、音数律を一覧できるファイル)のうち、約40曲に対して、節付け記号などを付加する作業をおこなったが、作業は一時中断している。その理由は、作曲者の特定をおこなうに必要十分な、パターン化の精度が、いまだよくつかめていないのである。すなわち、旋律のパターンを75調ひとまとまりで考えるべきか、あるいはもっとおおきな単位が適切かといった、単純だがやっかいな問題である。本年度作成した資料をじっとながめつつ有意義な仮説を提起する、ということが、次年度にもとめられている作業であろう。 本年度は、上に記した本研究の中心作業に加えて、謡という音曲がどのように歌われている(きた)か、謡の旋律の変形がどのように意味付けられてきたか、という問題に焦点をあてた研究発表をおこなった。国内では、芸能史研究会、口承文芸学会、国外では、南アフリカでおこなわれたInternational Council for Traditional Musicという国際学会の大会でそれぞれ、口頭発表の機会をえた。 さらに、昨年から継続しているデータベースの作成にも力をそそいだ。昨年度に一応の完成をみた「観世目次一覧」のバージョンアップをはかった。また、戦前に刊行された雑誌『大観世』の目次データベースも作成したが、まだ、公開にはいたっていない。次年度の課題である。
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