本年度は、まず『都新聞縮刷版』からの東京圏の映画館情報収集をおこなった。明治末年から大正末までの上映情報を収集し、総覧するための準備作業であるが、『都新聞』を選んだのは、芸能界に最も強い新聞としての定評のゆえであり、同紙を定点観測することによって、各映画館の上映番組のみならず、付随する芸能(新内や義太夫などの出語り)の様態を確実におさえることができる。 さらに本年度は、地方の劇場と映画館の変遷を考察するための基礎作業として、『全国主要都市劇場略史表』のデータ入力を完了した。同書は、現在までのところ最も網羅的な近代劇場分布に関する全国調査である。同書を基盤として情報更新をおこなってゆくためにも、データ入力による全貌把握は必須の作業とみなされるところである。 これらを踏まえて、地方都市の劇場についての調査・研究のモデルケースとして浜松市の調査をおこなった。来年度以降、いくつかのモデルケースを重ねて、文書依頼による全国調査への足がかりとしたいと考えている。 以上のように本年度の調査は、基礎的な情報収集とデータ入力を主としたが、これをさらに発展させるための原資料収集を併せておこなった。初期映画と歌舞伎にかかわる原資料については、未だ整理されていないものが膨大にあると見込んでの基礎作業として位置づけている。 このほか、演劇と映画の関係の具体例として、劇中劇で演じられる演目の芸脈に焦点をあてて、長谷川一夫のキャリアに即して論じた。
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