最終年度にあたる本年度は、古典芸能と映画の関係だけについての、ほぼ最初の専門書である『映画のなかの古典芸能』(森話社)の刊行に関わった。代表者も、執筆者の人選を引き受けたほか、人形浄瑠璃と映画について寄稿し、映画館において上演された邦楽の演奏など、従来、映画畑からは言及されることの少なかった問題について論及した。同書の刊行によって、歌舞伎をふくむ古典芸能と映画の影響関係について、少なくとも当該分野の存在をアピールすることには貢献し得たものと考えている。 地方の劇場誌のデータ整理については、演劇雑誌の口絵から多くの地方劇場図版を複写するを得た。地方における劇場から映画館への変遷については、地方誌の記述から多く学ぶところがあるが、図版資料についてはまだ未整理の部分が大きい。いずれ盛り場研究や地方都市論と関わるところと思われる。地方誌における劇場・映画館情報についての一次資料の所在について、調査を進めたが、これは着手したという段階に留まった。他に、新派の上演データを整理し、新派と映画という新たな未開拓分野への準備を果たした。 このほか、初期映画の上演リストをあらためてデータ整理し、題材による別、すなわち歌舞伎由来のもの、講談由来のものなどについて、大きく概括することができた。講談種が歌舞伎を経由して映画の題材となる例が膨大にのぼることは予想通りであるが、次の段階では歌舞伎化された台本と、映画側の乏しい資料(配役や写真など)の比較が求められるだろう。口頭発表「絵画から書割、書割から映画美術」では、歌舞伎の舞台装置と初期映画美術の共通性を説きつつ、映画化された歌舞伎作品での、映画独自の衣裳や場面設定などに言及した。これらは研究期間終了後に論文化する予定である。
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