本研究は、歌舞伎および落語の世界における「世代交代」の発現を実際の戦後公演記録の集計結果から定義付け・推定し、その上で両者の構造的共通点・相違点を比較することを目的として開始された。その前提として歌舞伎・落語の公演記録および実演家のデータベースが必要になるため、現状では一部を除いて電子媒体化されたデータが存在しない、この興行データベースの整備から作業を始めた。そしてこのデータベースの分析を進める中で、歌舞伎や落語の興行そのものについて、寄席定席への出演者や歌舞伎で上演される演目は非常に偏りが大きい、寄席定席の世界では、1983年の落語協会分裂騒動の影響が「圓生一門の勢力の衰退」という形で現在も残っている、等の事象の存在が明確になった。 これらの知見に、「世代交代」の影響も加えた研究を進め、平成23年3月には研究成果報告会を開催する予定だったが、震災の影響で開催不能になったため、研究計画を1年延長した。平成23年度は、研究の端緒となった顔付け画像データベースの作成者である落語の研究者や古典芸能の研究者を招聘して報告会を開催し、貴重な意見を頂いた。さらにこの席上では、文化庁の支援を受けて作成された顔付け画像データベースを、分析の基礎データとして最大限に活用したことに対して、賛辞も頂いた。また、立命館大学アートリサーチセンター紀要に論文を発表し、文化経済学会<日本>研究大会で口頭発表を行うなど、対外的な成果発表を積極的に行った。
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