江戸版悉皆調査のこれまでの成果をふまえた継続調査として20年度は古浄瑠璃の全国的書誌的調査を予定していたが、調査の途上で江戸版を出版する中心的書誌である松会家の子孫と連洛をとることができた。松会家の方々の口碑や戸籍等の資料から書誌松会家は伊勢商人であることが判明した。これは近世初期出版界の様相を規定する重要な事実の発見である。この事実の出現により、本研究は根本的な研究計画の改変を余儀なくされた。まず、出版界と伊勢商人の関連性の有無を三都や地方の書肆について検証し、その上で当初の各ジャンルの江戸版調査を行わなければ、調査する重要な観点を見落としてしまう恐れがあるからである。そこで当初の研究計画で進行していた古浄瑠璃の調査は一旦休止し、伊勢商人の近世初期における活動の様相や書肆との関係等の調査に着手した。従って20年度は古浄瑠璃の書誌的調査も伊勢商人関連の調査も時間不足のため完結することが出来なかった。そこで20年度は、江戸版出版の中心的書肆松会の営業活動の動向と江戸版との関係性を考察する論文(柏崎順子「松会三四郎 其二」)をまとめた。この作業は本研究の総括に際して、どこかの段階で行わなければならない考察で、この作業を20年度のまとめとして行った。この作業に伴い、資料整理の成果として『増補松会版書目』(青裳堂書店、日本書誌学大系95、2009)を編集・刊行した。また本研究の国文学における意義を簡略に紹介した記事「江戸版考-版権の様相」を『日本古書通信』第948号(2008年7月号)に掲載した。調査が未完となった古浄瑠璃と伊勢商人関連の調査は21年度に引き続き行い成果をまとめる。近世初期江戸出版界と伊勢商人との関連性という新たな事実の発見により、当初の研究計画が後年にずれ込んでいくが、研究最終年度にあらかじめそれ以前の年度の補完作業を盛り込んでいるので、調査の遅れはそこで調整する予定である。
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