本研究は近世文学研究を出版史の解明という観点において考察する研究であるが、平成23年度は、本研究の途上で新たに判明した江戸初期出版界と伊勢との関係に重点をおいて考察を深め、論文にまとめる作業を行った。当該研究は研究の途上で、江戸初期の江戸における中心的な存在であった松会市郎兵衛の子孫と連絡をとれたことで、大きな展開を見せた。最大の収穫は松会家が伊勢の出身であることが判明したことである。この事実はそれまでの調査の様々な方面で浮上していた江戸初期出版界の断片的な伊勢との関係に、一つの意味を付与することになった。江戸初期の江戸の出版界は伊勢商人によって発展した可能性が出てきたのである。このことが検証できれば、当時の書物の流通の問題や、文芸の京都と江戸の関係の在り方を解明する糸口と成り得る。そこで平成23年度は出版界と伊勢との関係を示唆する史料や伊勢の出版物の補足調査を行い、それらの史料をもとに、現時点で判明している初期江戸(場所としての江戸)出版界と伊勢の関係性、その事実から推定される京都や地方も含めた江戸(時代としての江戸)初期出版界の様相、今後の研究の進展の可能性等を整理して論文にまとめた。 なお、当初の計画では冊子の報告書を作成する予定であったが、本研究が予想外の展開をみせたこともあり、今後の展開も含めて結果が出た段階で全体のまとめをすることとし、今向の報告書の作成は見送ることにした。
|