研究課題に関わる各分野の資料収集と分析に着手し、道長家後宮サロンの実態を細部から復元するための基本となる研究を進めた。 1、私家集を中心とした和歌資料の調査 私家集を順次調査し、後宮サロンの交流関係という視点から関係記事を洗い出した。その際、詞書等にみえる直接的なやりとりだけでなく、歌語や歌枕の使用など、和歌表現における特徴的な技巧の有無に注目し、集団特有の詠歌基盤の解明にも務めた。 2、『源氏物語』とその周辺に関する再検討 道長家に仕えた紫式部の『源氏物語』について、権力者の実態や後宮政策を読むという視点から再検討した。 3、儀式関係資料の調査『御産部類記』の精査、続いて賀茂祭、五節、朝観行幸、后の行啓関係記事を収集・分析した。必ず女方が関わり、人気も高い儀式・行事なので、資料も多い。女方がこれらの儀式・行事にどう関わったのかを見極めることで、後宮サロンと儀式全般の関係を探るための手がかりを得ることができた。 4、仏教関係記事 非常に詳しく道長家の仏事関係行事を載せる『栄花物語』の分析を進めた。『栄花物語』にみえる仏教関係記事そのものの検討に加え、いかなる種類の仏典をどのように取り入れているかを見定めることで、道長家の女方と仏教の関係を考えた。 以上の調査、研究により、後宮サロンを文学のみならず、政治、経済、宗教といった観点からも分析し、総合的に捉えるという、本研究の目的を達するための基盤を築くことができた。
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