研究概要 |
今年度=平成20年度に発表した成果の中心テーマは、「近代日本の<国民文化>形成におけるドイツ思想の影響」。1870年前後から第二次世界大戦までの、いわゆる近代という時代状況について、日本とドイツが、その思想的潮流や歴史的背景において多くの共通点や対照性を示していることを踏まえ、ドイツとの比較を補助線として、近代日本における国家アイデンティティの内容を明らかにすることをめざした。その研究を進めるにあたって、哲学・美学・文学研究をとおしてドイツ思想・文化を受容し、近代日本の時代精神を形成する思想を表現していった森鴎外、大西祝、高山樗牛、姉崎正治、金子筑水、桑木厳翼の評論・論説を考察対象とした。 具体的には、日清戦争後から大正期にかけて--前世紀転換期から20世紀初年にかけての日本におけるドイツ思想・文化論が、当時の知識人の意識や国情の実態を反映していることを確認し、国民国家確立期の日本におけるドイツ哲学・芸術の受容の意義について論じた。すなわち、森鴎外、大西祝、高山樗牛、姉崎正治、金子筑水、桑木厳翼ら哲学者・文学者たちによって受容されたドイツ思想・文化は、それぞれの批評活動の典拠ないしは原動力となって,当時の時代精神そのものを創出していったことを明らかにした。 その趣旨から、ドイツ語圏の研究者に対しても発信することを志向し、ドイツ語での執筆・発表となった。
|