日本とドイツとの思想的潮流や歴史的背景の比較を通して、近代日本における国家アイデンティティの内容を明らかにすることを目的とする本研究課題において、本年度=平成22年度は、大正期の<文化主義>提唱に至るプロセスで、近代日本がドイツの<教養>概念をどのように受容したかについて、また、ドイツと日本における民俗学的研究の隆盛に注目し、ナショナリズムの高揚における<国家><民族><郷土><文化><風土>などの概念の位相について検討することをめざした。 具体的には、シンポジウムでの報告「近代日本における<教養>概念成立のための<大学>と<文化>」で、<文化>が創造されてゆく場としての<大学>の理念について、また<文化>を創造する主体であり媒介である<学問>の定義について、森鴎外の論説等を中心に考察した。また、『コレクション・モダン都市文化第65巻海港都市・神戸』のエッセイおよび同書収録の『観艦式記念海港博覧会誌』(1931年)「解題」では、自国の<文化>レベルの高さや<文明>の進化の度合いを誇示するとともに、他国の文化や技術力に学ぶことが目的とされた<博覧会>という行事におけるドイツからの影響や移入について言及した。さらに、『「Japan To-day」研究-戦時期「文藝春秋」の海外発信』の担当記事「夏(佐藤惣之助)」「日本におけるゲーテ(茅野蕭々)」において、ドイツ文化からの移入やドイツ文化への発信が、情緒や文学といった<日本文化>を豊かにするばかりでなく、ドイツ文化への、ひいては世界文化への貢献を果たすことになるという、<日本文化>信奉の当時の実相について考察した。併せて、<民族><郷土><風土>という概念に関わる考察として、地域研究報告集会で「地域研究としての郷土学」を論じた。
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