1、本研究の基本となるのは、地蔵寺所蔵文献の悉皆調査である。1~15箱がほぼ終了しており、それ以降の箱でも、箱全体ではないが調査の済んだものは多い。ただし、当初の予想を大きく上回る冊数と書き入れ、また新たに10箱分の存在が判明したため、現在調査が及んでいるのは全体の約3分の2程度になる。悉皆調査の結果は「地蔵寺所蔵文献目録」の形で作成を進めている。調査の済んだ資料については、目録への転記は完了した。 2、成果の一部として、3本の論考(1本は研究発表に基づく)を公表した。そのうちの2本は地蔵寺の文献を、1本は関係寺院の文献を対象とした(後者は次項で触れる)。前者においては、蓮体の仏教経典講義の内実、蓮体の著作の背後にある知識体系、及び文献そのものの読まれ方の一端を明らかにした。また、蓮体の所持本は、古代・中世・近世の仏教説話集の活用を鮮明に伝える貴重なサンプルであることも判明した。 3、関係寺院では、善通寺・温泉寺・金剛寺の文献を中心に調査した。特に金剛寺については、浄厳(及び弟子の蓮体)とのつながりがこれまでも確認されていたが、それ以降も関係のあったことが両寺の文献調査から明らかになりつつある。また、蓮体とは別に、金剛寺からは忠臣蔵の基となった赤穂事件の関係資料を見出し、その調査結果を公表した。これにより、従来は顧みられることが少なかった寺院所蔵の近世文献に、近世文芸との接点を見出せたことになる。この点は、仏教と文学との関わり方を考究する仏教文学への、新たな可能性の提示でもある。
|