本研究は、1950年に勃発した朝鮮戦争にかんして、どのような文学的表現が行われたのかを検証した研究である。朝鮮戦争は日本の戦後復興をもたらした戦争であると同時に、東アジアの冷戦体制を決定づけた戦争である。しかし、朝鮮戦争にかかわる文学的表現は、より複雑な様相を呈して描かれていた。たとえば、朝鮮戦争をテーマにしながら、それを同時代の日本社会への批判や知識人の苦悩として描いた堀田善衛『広場の孤独』の事例があった。また、広島や福岡、愛媛の地方紙誌においては、この時期に朝鮮戦争をテーマにした詩歌が多く発表され、それらがアメリカによる日本の軍事基地化への批判等とともに、旧植民地での経験や引揚げ体験をめぐる記憶と結びつくという特徴が見られたのである。
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