まず、2008年7月に、共編者として参加した『沖縄・問いを立てる1巻沖縄に向き合う』(社会評論社)が刊行され、ここで論考「攪乱する島-ジェンダー視点」と8編のブックレビューを発表し、つづく同年9月には、私が編者となる『沖縄・問いを立てる3巻攪乱する島-ジェンダー的視点』(同)が刊行され、この論文集のなかで、「序論性支配のレトリック」と「母を身籠もる息子-目取真俊『魂込め』論」を発表した。これらの成果は、従来の沖縄文学研究のなかで本格的には取り組まれてこなかったジェンダー研究を、特に男性セクシュアリティの視点から考察するものとなっていて、近現代沖縄文学研究に新たな文化表象分析の可能性を導入するものとなっている。また、上記の論文で特筆されるのは、ジェンダー表象分析という方法を、戦後沖縄という歴史的文脈のなかにおいて再考し、その研究の実践において、戦後沖縄というポストコロニアル状況が内在している社会的政治的特質を文学研究という観点から明らかにしている点である。これまでの戦後沖縄の政治・社会状況に関する研究において文学が注目されることはほどんど無かったが、上記の研究は、そうした欠落を埋めつつ、文学そして文化研究と社会及び政治研究を接合する試みとなっており、ジェンダー的視点の導入により、戦後沖縄総体を再考していく契機を開示するものとして、その意義は大きいと言える。事実、そうした点を高く評価する書評が、「図書新聞」「沖縄タイムス」「琉球新報」「インパクション」「みすず」などで提示されている。なお、このほか、論文「〈帝国〉の岬再領土化される帝国主義的突端=縁から」(『現代思想』2008年5月号)も発表したが、これも、アントニオ・ネグリの政治思想を、戦後沖縄そして現代の沖縄が抱えるポストコロニアル的状況とジェンダー編成において批判的に読解し、戦後沖縄の文化及び政治思想の可能性を考察するものとなっており、この研究課題と直接的に連動する形で、戦後沖縄文学及び文化のジェンダー表象の一端を明らかにしている。
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