新規に寄託された小牧近江書簡中、特に重要なものを翻刻しその意義について考察した。小牧とフク夫婦の結婚前後の書簡には、生涯続いた夫婦愛の原点を見ることができる。また、雑誌『種蒔く人』同人の金子洋文、今野賢三を始め、鷲尾よし子、小幡谷政吉、石田玲水、むのたけじらからの書簡は、小牧が如何に生れ故郷である秋田県との繋がりを大切にしていたかを物語っている。一方、堀口大学からのフィリップ訳書の寄贈に対する礼状には「ゆくゆくは全集を御出版の由」とあって、小牧の(実現しなかった)構想の一端が窺える。他に、小樽で発行した雑誌『クラルテ』の創刊号を送ったことの確認と寄稿を依頼する内容の小林多喜二からの葉書、フランスの小説家ジョルジュ・シムノンを東京ペンクラブ大会に呼ぶために協力して欲しい旨が書かれている江戸川乱歩のエア・メール、「パリ燃ゆ」の執筆に小牧が協力していたことを証明する大仏次郎書簡等、文学史的に貴重な書簡を多数発見することができた。それらの新資料に基づき、拙論「小牧近江と環「日本海」-新規寄託資料の可能性を遠望しつつ-」(『社会文学』第29号)において、小牧がフランスからのリアルタイムな情報を踏まえた複眼的な世界観を持っていたことを論じた。また、日本比較文学会2008年度東北大会では、発想の自由さや人間的スケールの大きさといった小牧近江の独自性について報告した。更には、「小牧近江資料展I-小牧近江の文学とその生涯-」(あきた文学資料館特別展示、2008年9月20日〜12月21日)、「小牧近江資料展II-小牧近江を取り巻く人びと-」(あきた文学資料館特別展示、2009年1月20日〜4月19日)の監修に携わりつつ展示解説文を執筆、研究成果を一般に公開した。
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