本研究は近世中期上方における明清漢籍、特に『春秋左氏伝』、『世説新語補』、『水滸伝』の三者を指標として、漢籍原本、準漢籍に付加された批注の形式と内容を分析し、受容の実態とその具体的な展開を考察するものである。本年度は、東京都立中央図書館などの東京地区の諸機関のほか、京都大学付属図書館、大阪府立中之島図書館、本居宣長記念館、名古屋市蓬左文庫、西尾市岩瀬文庫、金沢市立玉川図書館において、前記三者の注疏本、単疎本、和刻本(整版本、古活字本)、および関連文献の調査と資料収集を実施した。本居宣長記念館においては、宣長手沢本『左伝』の調査を行い、精細な書き入れのある当該本の意義を再確認した。宣長がこの手沢本を作製したのは、宝暦年間、京都遊学中の堀景山熟においてであるが、本研究課題の視野の中で、当時の内外の『左伝』注釈史上に本書をおいてみると、さらに新たな視点を獲得することが出来るという見通しを持った。 同様に、奥田松斎、都賀庭鐘、平賀中南などの関連著作活動についても調査した。また、秋成や馬琴のような文人の批評や文学作品への影響についても分析をすすめた。今回は、これに関連して、作者の小説主題や批評意識に関わる諸問題を論じたものとして、「「血かたびら」考-兄弟互譲課の視座から-」(国語と国文学85-5)、「『筑紫道記』と『雨月物語』」(文学・隔月刊10-1)を発表した。特に前者は『芸文類聚』、『史記』などの伯夷叔斉伝を載せる明清漢籍にもとづく考察である。秋成については、さらに、雑誌「文学」誌上、その他において、秋成研究者と意見交換を行った。 また、アルバイトを利用して、奥田松斎『拙古堂日纂』の資料整理を実施した。
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