本研究は近世中期上方における明清漢籍、特に『春秋左氏伝』、『世説新語補』、『水滸伝』の三者を指標として、漢籍原本、準漢籍に付加された批注の形式と内容を分析し、受容の実態とその具体的な展開を考察するものである。本年度は、東京都立中央図書館などの東京地区の諸機関のほか、大阪府立中之島図書館、京都国立博物館、関西大学図書館、尾道市立美術館等において、三者および関連文献の調査と資料収集を実施した。 『世説新語補』について、国立公文書館蔵本の尾藤二洲書き入れ、関西大学図書館蔵本の那波魯堂書き入れを調査し、有益な知見を得ることが出来た。本邦においては『世説新語』の影響もさることながら、明刊の『世説新語補』が重視されたことが確認される資料である。今後、釈大典、岡白駒などの他の注釈との関連を精査することで新たな視野の開拓が可能である。『水滸伝』について、雑誌「アジア遊学」131号(勉誠出版刊)において、「『水滸伝』の衝撃」と題して特集を企画編集した。広く中国史学文学語学、朝鮮語学、日本文学語学の研究者に呼びかけ、24名の参加者を得て、日本における現在の『水滸伝』および『水滸伝』受容史研究の水準を反映した内容となった。本特集に「平賀中南-「水滸抄訳序」注解-」を寄稿したほか、「はじめに」において、企画意図を述べた。 上田秋成について、『雨月物語』の注釈書『雨月物語精読』を公刊したほか、2009年10月31日から11月1日までの間、北京市紫玉飯店において行われた首都師範大学大学院主催(国際交流基金・日本学研究センター後援)のシンポジューム「カルチュラルスタデイーズの視野における日本文学」に参加し、特別講演「上田秋成が読んだ中国明清の漢籍」を行った。
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