本年度は、祝穆編書のうち、最も大部な『事文類聚』の版種について研究を進め、国内外の図書館に出張して、書誌調査を行った。まず国内で、諸本の淵源に近い元泰定3年(1326)盧陵の武渓書院刊行の版本2種を調査し、国立公文書館旧内閣文庫蔵60冊本と、本居宣長記念館蔵48冊本の全編を著録した。この両者につき、前年度に複製本を取得した北京・中国国家図書館蔵元刻66冊本と比較対査を加えたところ、これは同版の関係にあり、北京本、内閣本、本居本の順に印刷されたものと推定された。また内閣本は林羅山旧蔵、本居本は本居宣長旧蔵であって、本書が日本近世の学術に寄与した情況の一端を確認したが、後者は「経筵」の朱印記が認められたから、いずれかの宮廷の蔵書であったことがわかる。そこで、現在知られる「経筵」印記本のうち、宮内庁書陵部に収蔵する〔北宋末〕刊本『中説』、同『通典』、〔朝鮮前期〕刊本『服薬須知』の3種と比較検討を加えたところ、相互にほぼ同形、同寸の印記と認定された。厳密に同種とは確定されないが、同一蔵書の徴表と見られ、朝鮮朝経筵の旧蔵書と推定される。この本居本の全編について、マイクロフィルム複製を実施した。さらに南京図書館に出張を行い、同書流布本の〔明〕鄒可張刊本および、配合の徳寿堂刊本、同じく祝氏編集の『方輿勝覧』の〔宋末元初〕刊本の調査を行った。また本居記念館収蔵に合わせ、神宮文庫収蔵の『事文類聚』諸伝本に調査を加え、〔江戸初〕古活字刊81冊本を録したが、中途の33巻は朝鮮甲辰字刊本の補配であることが判明、同種の日本伝来が実証された。この他、日本近世末流本の版刻修印過程が詳しい点まで明らかとなった。
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