本年度は、中華人民共和国北京市の中国国家図書館・北京大学図書館・清華大学図書館・中国科学院図書館、同国遼寧省の大連図書館・遼寧省図書館、吉林省図書館、黒龍江省図書館に出張し、『事文類聚』の元明版、『方輿勝覧』の宋元版諸本に関する調査を行って、所蔵者ごとに審定が異なり、混乱していた版種に整理を加え、成果を得た。また国内では関東近郊の他、和歌山大学附属図書館紀州藩文庫に出張し、『事文類聚』の和刻本、『方輿勝覧』の宋元版について調査を加え、基礎となる伝本調査を進捗し、併せて日本における両種編書の受容について知見を得た他、前者和刻本中の再早印本を見出し、和刻本類の大要を把握することができた。 その中でも、紀州藩文庫収蔵の寛文6年刊本『事文類聚』菊池耕斎の附跋の解読によって、和刻本の傍注としては異例である所の校注は、刊者人尾勘兵衛が提供した七集本に、耕斎所持の舶載六集本を校合したものと推量された。これらは寛文刊本が、明万暦32年序刊本を覆刻した明末徳寿堂刊本を基に、恐らくは明鄒可張刊本を以て校合した本であることを示しており、和刻本をめぐる版本の関係がほぼ明らかになった。 また北京大学図書館収蔵の〔元初〕刊本『方輿勝覧』は、室町期東福寺の学僧・彭叔守仙の所持本、また紀州藩文庫収蔵の同版本も、室町期禅僧「鉄庵」某の収蔵を含むことが判明、室町期における同版流布の実態が徴証された。
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