平成20年度の研究成果は「文政末・天保期の合巻流通と価格」と「山東京伝の文学と絵画-『糸車九尾狐』と『絵本玉藻譚』」として、その一部が発表された。前者は天保改革における『偐紫田舎源氏』の絶板が奢修禁止令の一環であることを実証するために不可欠である合巻価格について考察を加えたものである。あわせて地本問屋の流通システムの実態を明らかにするという成果も伴い、近世の検閲システムを支えた地本問屋の研究に寄与できたものと自負する。これは天保改革後の地本問屋仲間再興との関連においても重要な研究といえる。 『偐紫田舎源氏』の絶板について考察するためには天保期の紙価格の動向についての調査が不可欠であり、その準備を進めている。後者は文化元年の『絵本太閤記』絶板にともなう色摺禁止令が合巻に与えた影響を考察するための予備的な研究である。『絵本玉藻譚』は文化五年の残虐な絵組の禁止令にも関わる作品である。 このほか『浮世絵大事典』(東京堂出版、2008年6月)において「改印」の項を執筆した。これは改印の変遷について、その理由等について考察を加えたもので、事典の項目ではあるが、検閲システムの研究をする上で不可欠の資料である改印についての問題提起となっている。 文化元年の色摺禁止令については、享和期の絵本の調査を国内外で行い、読本・合巻に与えた影響を精査中である。その成果の一部は21年度中に公刊される予定である。 また家元制度その他の社会制度が出版の統制とどのように関わったかについても資料の収集を行った。
|